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科学研究費助成事業 若手研究B 課題番号:25770278
出土状況・セット関係にみる縄文時代中期の儀礼行為に関する基礎的研究
■ 研究の目的
縄文時代には、土偶・石棒などの儀礼専用具、浅鉢や注口土器などの儀礼に用いられた容器、石壇、配石などの儀礼に関わるとされる施設などが豊富に存在し、世界の先史考古学においても有数の資料を蓄積している。しかしながら、これまで個別に分析されることが多く、全体の関連性は不明で、単に種類が列挙されるに留まっていた。本研究では、資料の豊富な縄文時代中期を中心に、儀礼関係資料の出土状況・セット関係についてデータベース化を行い、その相互の関係性を明らかにすることにより、儀礼の種類の分別、行為の順序、時間的・空間的変異などを解明し、先史社会における儀礼行為とその道具立ての実態の一端を明らかにすることを目的とする
■ 研究期間
2013年度~2015年度
■ 研究組織
研究代表者
中村耕作:國學院大學文学部兼任講師・研究開発推進機構客員研究員
■ 調査・研究の方法
(1)資料の集成・データベース化と解析
発掘調査報告書をもとに、資料の出土状況について、道具(土偶・石棒・土鈴・釣手土器・有孔鍔付土器・器台・壺・石皿・磨石・丸石・石鏃・打製石斧・磨製石斧・黒曜石剥片など)、設備(石壇、石柱、立石、入口部埋甕、床下倒置埋設土器など)、行為(土器・石器等の倒置、火入れ、炉石の抜き取りなど)などをデータベース化し、住居床面、住居覆土などの単位でどのようなものがセット関係にあるのかを確認する。
(2)コンテクストの解読・現地調査・検討会
上記のデータベース化は全体像を把握するためのものであり、これらとは別に、良好な事例については住居の構築から廃絶後までの各段階における道具のセット関係・配置状況などを詳細にあとづける。必要に応じて現地調査・検討会を実施する。
■ 研究の経緯と視角
研究代表者は、先に中期の釣手土器の検討において住居床面ないし住居覆土からの出土例が多いことを確認し、これらと共伴関係にある資料を整理したほか、釣手土器の出現・拡散・ドーナツ化現象という展開プロセスを指摘した(中村『縄文土器の儀礼利用と象徴操作』)。また、大形石棒の研究でも出土状況を集成し、住居出土例の共伴関係を検討している(中村「大形石棒と縄文土器」(谷口編『縄文人の石神』))。本研究は、こうした中期に登場する各種の特徴的儀礼具が、相互にいかなる関係にあるのかを整理するものである。
また、中期住居の構築から廃絶までのプロセスは東京都を中心として詳細な研究が行われているし、千葉県では人骨を伴う廃屋葬の事例が豊富に知られている。本研究ではこれらの先行研究を総合的に検討することで、中期における竪穴住居空間で行われた儀礼行為の空間的・時間的変異を整理することも目論んでいる。
■ 研究成果の概要
2013年度
研究計画に従い、(1)長野県・山梨県を中心に縄文時代中期集落遺跡の発掘調査報告書にもとづいて出土資料のデータベース化、(2)出土状況の詳細なコンテクスト分析のための前提となる先行研究の収集・検討、・千葉県内廃屋墓の事例集成を行った。
(1)は、本研究の題目ともなっている祭祀儀礼道具の「セット関係」を抽出する目的で実施したものであり、一定数の竪穴住居について出土状況の詳細な記録のある発掘報告書を選定し、住居床面・覆土・柱穴などの層位ごとに出土遺物の点数を集計した。これらのデータは試験的に多変量解析を実施したが、各要素が複雑すぎたためか有為なデータとして提示できる状態には至らなかったため、当初予定していた論文執筆を延期し、集計項目を再検討中である。また、当該期の儀礼具の1つである顔面装飾付土器・釣手土器についての再検討結果を論文・図書にまとめた。
(2)竪穴住居空間において実施された儀礼およびその前後の行為・プロセスを復元するため、焼失住居を含む覆土形成過程や竪穴の新築・改築・廃絶に係る考古学的研究、民族学的研究、民族建築学的研究に関する先行研究を収集、検討した。また、竪穴における具体的な儀礼の1つである廃屋墓(廃屋葬)の事例を集成し、覆土や柱穴との位置関係を検討した。これらの検討によって、竪穴が廃絶された後も一定期間上屋が存続した可能性や、一次埋没後までを一連の儀礼プロセスとして捉えて検討すべきことを確認した。
このほか、当該テーマに関連するテーマを扱っている若手研究者を招いた研究会を2回実施した。
中村耕作2013「第二の道具」『別冊太陽』日本のこころ212(縄文の力)
中村耕作2014「身体表現を持った土器とその考古学的課題」『國學院大學学術資料センター研究報告』第30輯
中村耕作2014「釣手土器を追う」『フィールド科学への入口 遺跡・遺物の語りを探る』玉川大学出版部
■ 科研研究連携研究会「縄文時代中期の儀礼展開に関する研究会」
本研究会は、科研研究でテーマとする縄文時代中期の儀礼の背景となる諸事象について東京近郊で縄文時代研究を志す若手研究者・大学院生・学生を中心に実施しているものです。
第1回 2013年6月27日
「儀礼の場・道具・行為のセット関係をめぐる研究の課題と展望」中村耕作(國學院大學助手)
「連弧文土器からみた関東・甲信地方の地域性」大網信良氏(早稲田大学助手)
第2回 2013年11月27日
「関東北における繩紋式中期後葉から後期初頭にかけての「文化」様相-土器個体群および「動物形象突起」の分析を通して-」長山明弘氏(千葉大学大学院)
第3回 2014年5月8日
「縄紋時代中期における抽象文土器の基礎的研究」佐藤拓也(國學院大學大学院)
「縄文土器の煮沸痕跡についての基礎的研究」馬場羽瑠桂(國學院大學大学院)
「縄文時代の水場遺構についての考察」山﨑太郎(早稲田大学大学院)
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