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土器の象徴性・社会性に関する比較考古学研究―壷・高杯の出現をめぐって―



■ 研究の概要
 土器器種のバリエーション、特に儀礼用器種のバリエーションは、社会状況と密接に関わる。本研究では、縄文時代前期から弥生時代およびその並行期の諸社会にしばしば出現する「壷」と「高杯」を取り上げ、そうした社会同士の比較や、出現する社会としない社会の比較を行う。これにより土器・儀礼・社会の関係性を論じ、モノと人類の関係性を問う物質文化論の基礎を構築する。

【研究動向・経緯・発展性】
研究動向と発展性
 土器の器種が、生活様式のあり方、つまり文化の個性と密接に関わることは、小林達雄や谷口康浩が論じてきたところである。注口土器は縄文時代に盛行する一方、弥生時代その他の文化では殆ど認められない。また、松本建速は、縄文/弥生移行期の東北地方において、儀礼用器種と日常用器種の製作技術に違いがあることから、社会のアイデンティティとの関係を論じた。
 こうした研究をうけ、中村(代表者)は博士論文において、釣手土器・浅鉢・注口土器など縄文時代特有の器種の展開や、土器の儀礼的な出土状況を検討してきた。また、阿部(協力者)は、浅鉢や壷などの器種の多様化を含めた多様な資料から社会変化を論じてきた。本研究は、これらの研究をさらに発展させ、弥生時代以降や隣接地域でも見られる壷や高杯を取り上げることで、より広範な視点から、器種の持つ社会性を論じるものである。
研究対象選択の理由
 「壷」は神聖な液体や穀物の貯蔵具、「高杯」はカミや目上の人物への供献具であり、共に儀礼と深い関わりを持っている。日本列島においては弥生時代に一般化するが、縄文時代においても直接的には日々の生活に不要であるにも関わらず、少数が各時期・各地域で散見され、葬送や廃屋などの儀礼で用いられるが、弥生時代直前に数が増加する。また、周辺地域でも同様の在り方が窺える。少数例の出現は地域・時期は、縄文時代の中でも比較的住居数(≒人口)が多く、社会的緊張関係が想定される時期に相当し、やがて別の器種に変形していく。こうした特殊な器種であり、時代を超えて存在する対象として壷と高杯を選択する。

【研究の目標】
 本研究では、T:日本列島先史社会における壷・高杯のあり方の把握、U:周辺社会でのあり方の予備的把握、V:総合的な比較検討を目標とする。

【特色・独創性・予想される結果と意義】
特色・独創性
 モノとヒトとの関係性や人類学的意義については、近年の各種の「物質文化研究」や「モノ学」など多様なアプローチが試みられているが、扱う対象は現代のモノが多いという現状がある。一方、考古学はモノを歴史的に検討する学問であるが、モノ自体か、モノの背景の研究に偏り、モノと背景(ヒト)との関係性を検討する視点は希薄であった。人類学においては汎人類的な考察があるが、個別の歴史的個性を意識したものではない。本研究はそうした点を念頭に、歴史学的な地域の個性との関係(社会性との関係)の考察と、人類学的な通文化的比較(象徴性の検討)の両面から研究を行う点に特徴がある。また、個々の資料の直接比較ではなく、代表者が提唱した〈器種-儀礼-地域社会〉の関係性モデルを用いて比較を行う点は他に例を見ない。
予想される結果
 縄文時代における壷や高杯などは、緊張関係のある地域社会のアイデンティティと関わると予想され、それは弥生時代の初期まで継続すると見込まれる。 本研究の意義・効果 儀礼という「心の文化」と、地域社会内部/地域社会間の「社会関係」について、「モノ」を媒介にして検討する。こうした視点は、物質文化論としての考古学の現代的役割を推進する意義を持つ。
また、従来、「モノや社会制度の伝播論的直接的関係に関心を寄せていた考古学」から、「モノとヒトとの関係を多様な観点から検討する考古学」へのパラダイムシフトの加速などの波及効果が期待される。

■研究期間
平成23年度(1ヵ年)

■研究組織
研究代表者
 中村耕作:國學院大學文学部助手
研究協力者
 伊藤慎二:國學院大學研究開発推進機構助教
 深澤太郎:國學院大學研究開発推進機構助教
 阿部昭典:國學院大學伝統文化リサーチセンター客員研究員
 加藤元康:國學院大學伝統文化リサーチセンターPD研究員
 石井 匠:國學院大學伝統文化リサーチセンターPD研究員
 加藤渉・高橋智也・佐藤直紀・冨樫那美・松政里奈・堤英明・猪瀬亜沙美・関明日美

■研究計画
縄文・弥生および周辺文化における土器器種の比較
 縄文時代、弥生時代、ロシア沿海州の新石器時代、韓国新石器時代、東南アジア新石器時代、北海道続縄文時代などを対象に、器種のセット関係、墓などでの儀礼利用の有無、人体・動物装飾の有無などを整理し、各文化の土器の特徴を明らかにする。
縄文時代中期・後期における器種分化の検討
 縄文時代において特殊な器種を生み出した、中期の中部地方、後期の東北地方を対象に、事例を収集し、一部実際の土器の観察によって、その使われ方、捨てられ方を考察する。これによって、各地域・時期で儀礼に利用されるなどの特殊視された土器の有無や、その変化を明らかにする。
亀ヶ岡文化における土器器種の検討
 具体的なケーススタディとして、本学が調査した岩手県小田遺跡の資料整理を進め、その器種・タイプの組み合わせを明らかにするとともに、周辺地域の主要遺跡、副葬土器の実測図を集めて、分類し、小田遺跡のあり方と比較する。こうした分析を通じ、亀ヶ岡文化において、どのような種類の器種が重要視されていたのかを検討する。
弥生時代における特殊器種の集成
 縄文土器のバリエーションの豊富さに比べ、弥生時代の器種のバリエーションは少ないが、注口部を持った土器などが少なからず存在するので、これらの情報を集めて整理し、後の埴輪に繋がる供献土器のあり方を検討する。

■研究成果中間報告会
 「土器の器種と儀礼・象徴をめぐる比較考古学」平成24年3月26日開催
 本研究会第U部の概要は、『上代文化』第43輯に掲載しています。

連絡先:國學院大學考古学研究室 〒150-8440 東京都渋谷区東4-10-28 03-5466-0248