『靖国の絵巻』公開にあたって
『靖国の絵巻』昭和16年秋
この『靖国之絵巻』には、日中戦争中期から大東亜戦後期にいたるまでの期間に描かれた戦争記録画等260枚余が掲載されています。これらの絵画は、北はアリューシャン列島から南はソロモン諸島、東はアメリカ西海岸から西は中国奥地まで広がった戦地を舞台として描かれているが、その中には、ノモンハン事件や南太平洋海戦、ガダルカナル島の戦いや大陸打通作戦など、戦史上に知られた戦いが多数含まれています。また、この絵巻に作品が掲載された約100名の芸術家のなかには、猪熊弦一郎、伊原宇三郎、川合玉堂、小磯良平、藤田嗣治、宮本三郎、向井潤吉、横山大観など、近代日本美術を代表する画家や書家が多数含まれています。このうち画家については、従軍画家経験を持つ者が含まれていることから、本絵巻の中には臨場感あふれる作品も多数みられています。
もちろん、これらの絵画は描かれた時代的背景および経緯から、戦時色が濃い内容となっています。とくに昭和18年以降のものには、外地における陸海軍の作戦情景のみならず、相次ぐ玉砕戦や日本国内における工場生産の様子、さらに民間防空の情景などが画題に取り上げられるなど、戦局の逼迫に伴い、取り上げられる題材や編纂方針が変化していったことが看取されます。
しかし、『靖国之絵巻』は単なる戦争記録画集として刊行されたのではなく、春秋の臨時招魂祭において遺族等に配布されていたことに示されるように、そのなかに描かれた戦場で仆れた陸海軍将兵の英霊を慰め、顕彰するために編纂されたものです。その意味において、この『靖国之絵巻』は戦時体制化における靖国神社信仰の一端を示す貴重な学術資料ということができます。
以上の観点に基づき、当センターでは『絵巻』の内容をデジタル化したうえで、広く社会に公開することとしました。これはあくまで靖国神社信仰や英霊祭祀、そして近代日本における戦死者慰霊について研究するための学術資料として公開するのであり、戦争記録画の存在、および、その製作者を批判、または顕彰することが目的ではなく、ましてや営利を目的とするものではないことをお断り申し上げます。
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