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慰霊と追悼研究会(第1回)

  • 日時:
    平成18(2006)年9月12日 18時51分から21時05分
  • 場所:
    國學院大學渋谷キャンパス120周年記念2号館2503教室
  • 参加者:
    18名
  • 発表者・発表題目:
    藤田大誠(21世紀研究教育計画ポスドク研究員・日本文化研究所兼任講師)
    「日本における慰霊・追悼研究の現状と課題」
藤田研究員
  • 会の概要:
     平成13年の小泉首相の靖国神社参拝を端緒として、靖国神社や国家による「慰霊」や「追悼」に関する議論が政治・外交に渉る問題として、さかんに議論がなされている。その一方で、こうした問題について一定の学術的根拠を与えてきた学界においても史学・宗教学をはじめとして、多様な学術的立場から戦没者の「慰霊」「追悼」「顕彰」に関する研究が活性化し、これまでになく研究視点や方法、対象の多様化が見られている。そこで、第1回の研究会においては、藤田氏に、近年多様な展開を見せている日本における戦没者慰霊・追悼・顕彰に関する研究の動向を概括してもらい、現在何が明らかにされ、何が不足なのかについて検討し、今後の共同研究遂行に当たって必要な方向性をさぐるとともに、参加者一同への知識の共有を目的とした。
     先ず藤田氏は近年の諸研究から「慰霊」「追悼」「顕彰」「戦死者祭祀」「英霊祭祀」などの諸概念について、矢野敬一、赤澤史朗、島薗進、西村明、新谷尚紀、池上良正などの各氏の研究を紹介しつつ、その多様さを指摘した。そして、近代日本における戦没者慰霊を研究する基本的な立場として、今井昭彦氏が『近代日本と戦没者祭祀』において「近代日本の戦死者祭祀の出発点は、既述のように、まず日本人同士が戦った戊辰の内戦にあったから、この内戦への視点が欠落していては、そもそも近代日本の慰霊問題は語れないはずである。靖国神社の前身たる東京招魂社も、当初は内戦における政府軍戦死者を祀るために、建てられたものであった。研究の多くは、どうもこの点が軽視されているように思われる。」と指摘するように、先ずは改めて近代の出発点とその歴史的な展開を押える必要があるとした。そのうえで、改めて村上重良氏による研究の重要性を挙げ、とくに『慰霊と招魂』などにおける氏の議論には、多くの問題点があるものの今に続く研究の大枠を提供し、そして現在の研究も、多様な展開と議論を行ないながらも村上氏の描いた枠組みに収斂しているように、慰霊追悼研究の基点として氏の研究を位置づけた。
     また、小泉首相による参拝を契機として浮上した、国立追悼施設建設に関する論議に触れ、先ず、いわゆる反「ヤスクニ」にたつ議論の中でも、靖国神社に替わる国立追悼施設建設を推進する方向性と、これ自体も「国のための死」を推進する装置であるとして反対する方向性とに議論が分かれた一方、こうした論議の過程で沖縄の慰霊施設、原爆慰霊、英国・米国・ドイツなどの各国の追悼施設との比較検討が試みられたことを指摘した。また、両論併記の立場から編集された国際宗教研究所編『新しい追悼施設は必要か』では、神道・仏教・キリスト教・新宗教などの「若き宗教者」を発題者とした興味深いシンポジウムの記録のほかに、現在目覚しい業績を上げている粟津賢太氏、今井昭彦氏、西村明氏などの論文が収録され、現段階の「慰霊」研究のダイジェストともみなされるとした。
     さらに、追悼懇とともに議論が活性化した「靖国神社問題」については、子安宣邦氏の『国家と祭祀』や高橋哲哉氏の『靖国問題』など、研究者による自身の信念の正当化の域を出ない論も見受けられる一方、近年の研究傾向として、異なる立場の議論に対しても正面から向かい合うというスタンスを示す研究も出されているとして、赤澤史朗氏と三土修平氏の研究を紹介した。その一方で、靖国神社の「戦後」に焦点をあてたこれらの研究が、さらりと触れただけの「近代」の研究は、意外なほど乏しいことを指摘した。反面、“中野晃一”+上智大学21世紀COEプログラム編『ヤスクニとむきあう』に代表されるように、村上氏や大江志乃夫氏などが提示した枠内で議論を帰結させてしまう、静態的な研究のありかたを批判し、こうした研究をより動態的にするためにも、今後、「戦後」を語る前に踏まえるべき靖國神社の近代史を丹念に研究するこそが重要な課題となることを指摘した。
     次に、近年の顕著な傾向として共同研究による体系的な「慰霊」研究の成果が多く送り出されていることを挙げ、平成15年3月に刊行された国立歴史民俗博物館における共同研究報告書『近現代の戦争に関する記念碑』『国立歴史民俗博物館研究報告』102集「慰霊と墓」や、大阪大学の川村邦光氏を代表とする「戦死者のゆくえ」研究会の活動とその成果(科研費報告書『戦死者を巡る宗教・文化の研究』、川村邦光編『戦死者のゆくえ』などの代表的な成果から、近年の「慰霊」研究においては靖国神社や護国神社、忠魂碑、忠霊塔さらには軍用墓地などに研究対象の拡大が見られることを挙げた。そのうえで、これらの共同研究がいずれも「小泉参拝」以前から始動していたものであり、それに刺激は受けたものの、基本的には平成に入ってから着々と積み上げられてきた研究の成果の上に立つものであると位置づけた。また、近年は特に民俗学側からの研究が顕著であり、田中丸勝彦氏による「英霊祭祀」の研究を先駆的業績とし、岩田重則氏『戦死者霊魂のゆくえ』や先に挙げた今井氏の『近代日本と戦死者祭祀』など注目される成果が刊行され、先の大戦の戦死者のみならず、戊辰戦争など近代日本の内戦における戦死者慰霊に関する事例研究や、民俗学における祖霊信仰学説批判などが行なわれているとした。一方、宗教社会学の分野においては粟津賢太氏による戦没者慰霊の場の観念の分析や、西村明氏による「国家的慰霊システム」の外にあるものとして、戦後新たに浮かび上がった問題としての原爆、戦災死者の慰霊が研究課題として挙げられていることを紹介した。これに対して神社界からの研究は余り多くないものの、歴博などの忠魂碑などの研究は、これらの神社関係者の努力によるデータが活かされたものであるとした。そして、これらの主要な研究以外にも全体として「靖国神社問題」に関わる言説的な考察や国内外の慰霊に関わる歴史的、実態的研究は枚挙に暇がないし「御霊信仰」や人神祭祀、「怨親平等」観など数多くの研究が出されているものの、その殆どが「靖国神社を相対化する」視点からおこなわれているものであり、その対象ももはや国家レベルの「慰霊」だけには留まらないものとなっていると、その傾向を指摘した。
     藤田氏はまとめとして、「戦没者に関する慰霊と追悼の問題は、政治的、社会的な運動や議論はともかくとしても、学界における研究に関しては既に小泉参拝以前から腰をすえて取り組まれたものが多く、決して付け焼刃的なものが主流とはいえない。それゆえにこそ、「政治的な意見」を戦わせる以前におこなうべき、神社界や神道研究者の研究も加わった総合的な「慰霊」の共同研究が今こそ求められる」とした。そのうえで、これまでの研究で欠いている点として、まず、日本の歴史や宗教文化の中で育まれてきた慰霊に関する観念が、どのように靖国神社につながっていくのか、または断絶しているのかについての検討を加える必要があること、とくに「御霊信仰」や「怨親平等」など、我が国の「伝統」として無批判に用いられている事象や概念のクリティ―クの必要性をあげ、そのうえで靖国神社を論ずるに当たって、近代を通じての総合的な研究がなされていないなどの課題を示した。そのうえで本共同研究においては現在の「靖国問題」そのものにいきなり「むきあう」のでは無く、あくまで、未だ研究の進んでいない、近代の靖国神社をはじめ、それをさらに遡った古代・中世・近世のそれぞれの地点から、日本的「慰霊」「追悼」「顕彰」の種々相を具体的な資史料をもとに「歴史的」に考察し、その成果を互いに共有することを中軸とすべきではないかと提議した。(文責:中山 郁)

会の様子
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