國學院大學國學院大學研究開発推進機構 研究開発推進センター

ホーム > 研究 > 研究活動 > 慰霊と追悼研究会 > 慰霊と追悼研究会(第2回)

慰霊と追悼研究会(第2回)

  • 日時:
    平成18(2006)年10月7日 14時00分から16時30分
  • 場所:
    國學院大學大学院0504演習室(渋谷キャンパス若木タワー)
  • 参加者:
    26名
  • ゲストスピーカー:
    池上良正(駒澤大学教授)
  • コメンテーター:
    藤本頼生(神社本庁教学研究所録事・日本文化研究所共同研究員)
    菅浩二(日本文化研究所共同研究員・ハーバード大学ライシャワー日本研究所客員研究員)
  • 司会:
    藤田大誠(21世紀研究教育計画ポスドク研究員・日本文化研究所兼任講師)
  • 会の概要:
     第2回「慰霊と追悼研究会」では、近年『死者の救済史-供養と憑依の宗教学』(角川選書)や「靖国信仰の個別性」(『駒澤大学 文化』24)などで戦没者慰霊や靖国神社の問題について研究を進めている池上良正教授を招き、議論を行なった。
     まず池上氏は、近年の靖国神社に関する議論において、神社や祭神の性格そのものの「抽象化」や「観念化」が顕著に見られるようになり、問題が政治的レヴェルに移行している傾向が強く、「生身の人間の見えない」議論が並行化していることを指摘した。またその点を踏まえて、戦没者の慰霊を通した遺族の心の救済を、中世・近世の死者儀礼や中国における「死者儀礼・先祖祭祀」の流れの中に位置付け、「死者の慰霊」は同時に「生者の救済」に繋がるものであり、そこには日本における独特の慰霊構造が存在するのではないかと述べた。
    池上教授
     またこれに伴い、靖国神社に対する信仰においては「公」と「私」、「個」と「集団」が截然と割り切れない関係にあり、この事実を見据えていくことがこれからの議論に必要なことであるとし、そのためには「個」としての祭神の「霊格」を再考する必要性を指摘した。そのうえで、現在の宗教学に見られるような西欧的概念と外国論文の翻訳に基づく枠組みが、日本の諸宗教現象の全てに必ずしも当てはまるわけではないとしたうえで、そのような「高みから見る学問」を排して、日本の宗教の諸現象に合致する独自の概念を形成する事が肝要であることを指摘した。
    菅研究員
     池上氏の発表後、コメンテーターの菅浩二研究員が、アメリカにおける「靖国神社問題(Yasukuni issue)」についての最新の研究動向を紹介しつつ、アメリカでの靖国神社に関する議論は今に始まったことではなく、橋本龍太郎政権当時から既に新聞その他のメディアにおいて問題視されていた事、また、マスコミが「首相の靖国神社参拝」を報道する際に使用している用語(「英霊を弔う」等)について違和感を示し、その再考を要すべきと主張した。
    藤本氏
     次に藤本頼生研究員は、制度史上の観点から、靖国神社の歴史的経緯が議論の埒外におかれがちな現状の問題性を指摘した。また、そもそも何故我が国戦没者慰霊の中心施設が「神道」「神社」なのかという根本的な問題性を問うことで、そこには古来、共同性を重視する特性が指摘できるのではないかと述べた。
     各コメンテーターの発表の後、討議が行なわれ、「慰霊」を論じる研究が、村上重良の『慰霊と招魂』の後には殆ど展開が見られていないことや、「個人性」に関わる海外慰霊巡拝が「集団性」と比較してどのような位置づけがなされるのかについて論議された。
     最後に阪本是丸研究開発推進センター長から、集団性としての「靖国神社」と個別性としての地方の「招魂社」「護国神社」といった観点が提示された。また日中戦争以前の戦没者に対しては詳細な祭神の祭日(個別性の発露)が靖国神社から出されていた歴史的事実等を指摘したうえで、大量の戦没者を生み出した大東亜戦争前後の靖国神社のみをクローズアップすることの問題性を提起しつつ、これからの慰霊研究に対しての期待と展望が述べられた。
     今回の研究会では、池上教授との議論を通じて、これまでの戦没者慰霊研究では正面から取り上げられることの少なかった靖国神社信仰の「集団性」と「個別性」や、「生者と死者の救済」という問題に向き合う必要性を認識するとともに、そうした視座から日本における「慰霊と招魂」の歴史性について研究していくための問題点が抽出された。このことは、今後の研究会における研究方針を考える上で意義深いものであった。さらに、本学の神道学、文学、史学、考古学の研究者・大学院学生ばかりでなく、他大学からも若手研究者が集まり、問題意識を共有することが出来たのも大きな成果であった。
    (文責:國學院大學大学院文学研究科 上西 亘)
会の様子
國學院大學研究開発推進機構 研究開発推進センター
〒150-8440 東京都渋谷区東四丁目10番28号
電話 03-5466-0104(研究開発推進機構事務課)
Copyright (C) 2006- Kokugakuin University Centre for Promotion of Excellence in Research and Education.