國學院大學國學院大學研究開発推進機構 研究開発推進センター

ホーム > 研究 > 研究活動 > 慰霊と追悼研究会 > 慰霊と追悼研究会(第14回)

慰霊と追悼研究会(第14回)

  • 開催日:
平成20(2008)年3月21日 18時00分から20時00分
  • 場所:
國學院大學大学院0507演習室(渋谷キャンパス若木タワー)
  • 参加者:
13名
  • 発表者と発表題目:
黒田俊雄『鎮魂の系譜-国家と宗教をめぐる点描-』を読む
【第3節担当】中村聡(研究開発推進センター研究補助員)
  • 会の概要:
(い)中村発表要旨
 黒田氏は当該文節「1」において、まず「霊魂」を祀る行為の背後に、為政者側のご都合主義的な動機を指摘する。また、それは「仏」であれ「神」であれ「政治が宗教を利用してつくりあげた虚偽意識にすぎない」ものとも看做した。そのため必然的に、霊魂の神格化における希薄性が浮き彫りとなり、それは近世期の民衆社会内におけるおいてもまた同様であると結論付けているといえよう。
 発表者は、義民・佐倉惣五郎を事例として取り上げ、事件の顛末とともに、惣五郎没後の顕彰の経緯と、その後の歴史的位置づけについて追ってみた。黒田氏は「佐倉宗五郎など百姓一揆の先頭に立った人物は、死後「義民」として、民衆の側から、また逆に領主の側から、慰霊・感謝・顕彰がなされ、「大明神」として祀られた例も多いというが、この神号はいわば尊称であって、意味するものは主として生前の人格への尊崇であり、その心情を呪力視して崇拝するまでの宗教的性格をもっていたかどうかは、慎重な判断が必要であろう。ことに、社会的・政策的配慮からの領主側による顕彰もあったとすれば、なおさらというべき」として、特に「社会的・政策的配慮からの領主側による顕彰」された点を強調している。そもそも義民への慰霊と鎮魂のすべてが、佐倉惣五郎に代表される「呪力視」に基づく崇拝対象に一元化できるものかは疑問である。また黒田氏が本論の前提として述べる「政治が宗教を利用してつくりあげた虚偽意識にすぎない」との言辞は、惣五郎の件に関しては符節する内容があったとしても、他の事例には、必ずしも一致するものではない。高山彦九郎『墓前日記』天明7年6月27日の記事には、高山の生国である上野国が生んだ新田義貞の顕彰に努めるとともに、郷土の偉人の霊が永く留まり、一つの模範となって後世へ継続的に遺志の伝承がなされていくと見ていることが窺われる。また自由民権運動家の1人で、平田派の国学者に位置する小室信夫の養子の信介は、『東洋民権百家伝』(序言)において、惣五郎の他に地方に多く潜在した義民に関する伝承を蒐集することを通じて近代初頭における民衆運動の淵源に位置づけ、その霊魂を鎮めようとしたことを述べる。ここにいう霊魂の存在とは、黒田氏が中世社会に見出した可視化される幽霊や呪力を伴う、といった影響や効験を齎す存在ではなく、歴史的存在としての当該人物が、人々によって様々な形で語り継がれることにより、後世の所縁ある時と場所において、影響を齎す存在と看做されているものと思われる。また黒田氏は、当該文節「2」「3」において、近世期の国学(復古神道)においては「中世風の宗教的感情・情熱の冷め果てた時代の、むしろ学説と名付けるにふさわしい性格」であったと指摘する。幕末国学者矢野玄道は『八十能隈手』(一之巻)において、霊魂が「歡喜」「瞋怒」といった人間と同様の感情を有し、幽世から人間社会(顕世)に対して何らかの影響を齎す存在であることを治世の側面から指摘し、祭祀の必要性を指摘した。このような霊魂観は、人を祭神とする神社に関して、「其神祇を崇敬するの精神は、かの冥想の所産たる唯一絶對の宗敎上の所謂「神」を敬するの意にはあらで、吾等の祖先、吾等の恩人に對し、その恩澤に報謝するの意に外ならず。(中略)嘗てはわれ等と等しき精神と肉体とを具有し、われ等子孫の爲に心命を惜しまず活動したる大人格のみ。」(土方久元著・安原清輔、佐伯常麿編『天皇及偉人を祀れる神社』大正元年、帝国書院)とも述べられるような、祭神を生前と等しい人格と感情を有する存在対象と看做した端的な表現であると考えられる。黒田氏の言う「霊魂を祀るとはいってもそれは御霊信仰のように霊魂の機能を神格化する方向をもたず、生前の人格の尊崇という色合を強くもち、生身の人間の面影がついてまわる。」との指摘は、近世期以降の霊魂観の一面において理解されるものであろう。しかし当該時期の霊魂観には、個別の事例や社会背景の多様性からみても、必ずしも人の霊魂が黒田氏の指摘するような、常に「呪力視」される怨霊的存在でありつづける必要があったわけではなく、人を神と祀る場合に、生前の人格等を引き続き持ち続ける存在であることによって、「敬い」や「顕彰」といった神格の位置づけへの営みが育まれ、それが近世以降に芽生えた霊魂観の発展の一つであったと考える視点も必要だと思われるのである。
(要旨の文責:中村 聡)
國學院大學研究開発推進機構 研究開発推進センター
〒150-8440 東京都渋谷区東四丁目10番28号
電話 03-5466-0104(研究開発推進機構事務課)
Copyright (C) 2006- Kokugakuin University Centre for Promotion of Excellence in Research and Education.