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講演会『近代社会形成と宗教』

  • 開催日時:
     平成20(2008)年7月16日(水) 15時00分~16時30分
  • 場所:
     國學院大學
  • 講師:
     Dr. Trent E. Maxey(Assistant Professor, Amherst College, USA)
  • 司会:
     菅浩二(本センター助教)
  • 概要:
     従来「近代化」と「世俗化」は同時並行的な過程である、と考えられてきた。しかし今日では、現代社会と宗教についての諸研究では、このような単純な捉え方は改められつつある。世俗/宗教の両者が相互に規定し合う関係性、この二分法自体が既に近代社会の「脱呪術化」という前提に立脚していること等、換言すれば「宗教」概念の成立そのものが西欧社会の歴史的制約に負うものである事実等、が指摘されている。
     とりわけ国民国家の形成・発展過程と宗教の役割に注目すれば、「近代化」脱呪術化を経た上での「再呪術化」は、その範型となった西欧を含め、諸国のナショナリズムの事例一般に見出されている。一方、近世から近代の日本史の流れを特殊具体的に追いつつ、その中での「宗教」の位置・役割を検証する研究でも、欧米「文明」がもたらした強烈な影響と、精神生活上の土着的価値観との関係性が、当然ながら大きな論題となってきた。だが近代日本と宗教の関わりについては、本来、事後からの包括的説明概念であったはずの「国家神道」の包括性・特異性を強調するのみで、近代諸国家の一事例として捉える視点からの説明が尽くされていない場合も、往々にして見られる。
     今回の講師マクシー氏は、国民国家体制の諸例を「宗教」に注目しつつ一般化して得られる枠組みと、従来の近代日本史研究による成果とを、具体的な史料の検討を通じ改めて結びつけることを試みている、新進気鋭の米国人研究者である。氏は昭和49(1974)年に鹿児島県に生まれ、18歳まで日本で生活した後米国へ移り、日本の近代国家形成過程での「宗教言説の政治的形成」研究でコーネル大学から博士号を受けている。今回の講演会は氏の調査目的での短期訪日を機とし、本学の研究者との交流を狙って企画された。
     講演でマクシー氏は、まず「宗教の私事化」論を受け、「公」の義務と「個人の内面」との区別、そして「内面」を越えるアイデンティティとして、国家が「国民」であることを個人に要求する事態を、「世俗化」の一面として説明した。そして、大英帝国のインド支配の例などを挙げつつ、この「個人の内面」が「公」にされる局面としての”conversion(改宗)”に注目する、とした。更に、この意味の「世俗化」により、19世紀には欧米諸国でも「宗教」概念が「選び取られるもの」へと揺らいでいた事実、また他方、日本では皇室の尊厳と在来の宗教的価値を分離する必要性が意識されるに至った事、の二点に配慮し、氏は、明治国家の事例を外からの宗教言説の「輸入」とする説明は訂正されねばならない、と述べた。
     この点についてマクシー氏は、会沢正志斎ら幕末思想家、岩倉使節団、明六社の人々等の見解を例示し、conversionを切り口として分析を試みた。そして、新たな形式での国民統合の生成過程で、皇室の尊厳が信仰/不信仰の対象となることが避けられ、他方で行政側・知識人の警戒・注目の対象が、具体的なキリスト教から抽象的な「宗教」といふ範疇に移行していること、更にこの「宗教」の抽象化・一般化が、各宗教の優劣に関する判断と序列化を生んだこと、が指摘された。その上で氏は、「国家の宗祀」たる神社祭祀がこの序列の外に位置づけられたことを、国民国家が「宗教一般」との関わりの中で持つディレンマ-人々の精神的内面に干渉せざるを得ないが、干渉が同時に「世俗性」と「宗教的中立性」の間で微妙な危険性を生む-の事例、として解釈した。
     講演の後、講師と本学の若手研究者達、また本学の阪本是丸教授、井上順孝教授との間でも活発な質疑応答が行われた。特に講演が抽象的枠組を提示する事に重点を置いたため、政府側の「政策」を一貫したものと見なすことにより、具体的な政策決定上の各局面やその過程でのダイナミズムがやや捨象されすぎていた点、歴史的構築物と実践としての「神道」の特殊性の位置付け、等について質問があり、講師からの補足説明もあった。
     参加者は、具体的な史料に即した事例研究と、理論的な次元を含めた枠組論の探究の双方が今後とも必要であることを確認し、散会した。
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