源氏物語の本文資料の再検討と新提言のための共同研究

■ 研究の意義

 

 

 

 

 
 

『源氏物語』の本文に関する研究は、池田亀鑑の『校異源氏物語』(昭和17年、中央公論社)に始まり、『源氏物語大成』(昭和28年、中央公論社)をもって止まったままの状態にあります。『源氏物語大成』の「校異源氏物語凡例」に「原稿作成ノ都合上、昭和13年以後ノ発見ニ係ル諸本ハ割愛シタ」(5頁)とあるように、そこで本文研究は中断したままなのです。今から70年前に、『源氏物語』の本文について考える資料は凍結されていたといってよいでしょう。
その後、多くの資料が発見されて現在に至っているのですが、本文についての再検討は、個人の努力の中に埋没しつつあるというのが現状です。

従来の『源氏物語』の本文は、いわゆる青表紙本が中心となってきました。それも、近年では「大島本」だけが読まれていると言ってもよい状況にあります。そうした現状に対して、研究分担者の伊藤鉄也は『源氏物語本文の研究』(平成14年、おうふう)において、青表紙本という呼称を廃して〈河内本群〉と〈別本群〉という2分別案を提唱しています。また最近では、新美哲彦氏が「揺らぐ「青表紙本/青表紙本系」(『国語と国文学』東京大学国語国文学会、平成18年10月号)で、これまでの本文研究史とその問題点を整理して、長く慣れ親しまれてきた「青表紙本/青表紙本系」という名称の不使用を提言しています。

例えば、『源氏物語大成』の「若紫」巻には、別本として採択された写本はありませんでした。そこで、 連携研究者の伊藤は『源氏物語別本集成』第2巻(伊井春樹・伊藤鉄也・小林茂美編、桜楓社、平成元年6月)において、「陽明文庫本」や「中山本」を採択して校合し、さらに第二期刊行の『源氏物語別本集成続』第二巻(同編、おうふう、平成17年10月)においては、「橋本本」を校異資料として採択するなど、新資料を積極的に整理して公開しています。また、連携研究者の渋谷栄一は『源氏釈』(おうふう、平成12年9月、平成12年度科研費補助研究成果「学術図書」)で、古注釈書における抄出本文を確認しやすい形で整理しています。

さらには、河内本の実態を解明すべく、研究代表者の豊島秀範は、「平瀬本」の翻刻を精力的に進めています。『源氏物語「平瀬本」の翻刻および本文の基礎的研究 桐壺〜藤裏葉』(平成17年度國學院大學特別推進研究助成金による研究成果)、『同 若菜上〜夢浮橋』(平成18年度國學院大學特別推進研究助成金による研究成果)がそれで、「平瀬本」全体の翻刻を、さらに読みやすい形にする作業も継続しています。

同じく、「平瀬本」については、研究分担者の遠藤和夫は「平瀬本『源氏物語』の再評価」(『國學院雑誌』國學院大學、平成18年9月号)で、「平瀬本」が巻によっては、いわゆる青表紙以前の貴重な本文を有していること、しかしそれが『源氏物語大成』にはほとんど反映されていないことなどを明らかにしています。

以上の他にも、本研究に関わるメンバーの地道な調査研究活動が継続されており、『源氏物語』の本文研究の環境は、少しずつではありますが整いつつあります。そこで、広く研究者に呼びかけて、共同研究として取り組もうとするところに、本研究の意義と特色があります。

 
 

 

 

 

 

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画像提供:國學院大學図書館

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