森敦文学は、膨大な自筆資料の保管がなされています。森富子氏が自筆原稿をはじめ、草稿、メモ、断片に到るまでことごとく保管してくれたおかげです。それによって一人の作家研究としては、その生成過程を詳細に調査することが可能になっています。言い過ぎになるかもしれませんが、ここまで細かく自筆資料が保存されている作家は希有と言えるでしょう。
森敦の自筆資料は、2012年5月、山形県鶴岡市に寄贈されました。その際、記念企画展示として「ふるさとを描いた文学~絆・横光利一と森敦~」(2017年9月1日~11月3日、鶴岡市立図書館2階)が開催され、本研究会も協力し、調査で得た成果を提供しました。
自筆資料の調査にあたり、鶴岡市教育委員会の多大なご協力に感謝申し上げます。なお、同市から目録が刊行されておりますので、詳細はそちらをご参照下さい。(→こちら)
森敦文学の膨大な自筆資料の公開、調査についての全面的なご理解とご協力、さらに執筆時の森敦についての様々なご教示を賜った森富子氏には、心より感謝申し上げます。
「われ逝くもののごとく」生成過程
研究会では、鶴岡市に寄贈された森敦自筆資料が膨大なため、調査結果が散漫になるのを避け、森敦の代表作であり、晩年の大作である「われ逝くもののごとく」に調査対象を絞りました。森敦の執筆過程の歴史の集大成とも言うべき本作品を調査することで、執筆の方法や書き換えの特徴などを見出すことを目的としました。
「われ逝くもののごとく」の自筆資料について
「われ逝くもののごとく」の生成の過程は、起筆となる自筆による原稿執筆から雑誌「群像」での全36回連載を経て、単行本刊行に到るまで、8種類の自筆資料が存在しています。
①自筆原稿
②自筆原稿+自筆原稿の複写(断片を含む)
③自筆原稿の複写
④初出(雑誌「群像」の本文)
⑤初出の複写
⑥単行本初校
⑦単行本二校
⑧単行本念校
以上に、加えて単行本『われ逝くもののごとく』の初版本文があります。
①は、全部で1200余枚あります。正確な数字が示せないのは、森敦は原稿を切り貼りし、執筆していたため、断片が存在し、それらが原稿のどこに該当するか、あるいはうち捨てられてしまったものか、判断が難しい場合があるからです。
②は、自筆で書かれた原稿に、①自筆原稿の複写が足されている資料を指します。この他、該当箇所の不明な断片も含みます。②は連載全36回分すべてあるわけではなく、第2回、第28回、第30回、第35回、第36回のみです。
③は、①の複写です。ただし、②がある場合は、②の複写となっています。
④は、雑誌「群像」に連載された初出本文です。
⑤は、④初出本文が掲載された雑誌の該当ページの複写です。
⑥~⑧は、単行本制作のための校正紙です。
以上から、④初出本文で、一度「われ逝くもののごとく」は完成し、改めて改稿がなされ、単行本の初版本文と成り、現在読まれている作品になったと捉えられます。その異同について、生成過程として示していきます。
異同の掲載について
異同の示し方については、翻刻をしてその結果を掲載します。ただし、全文掲載は著作権等の問題があるため避け、加筆や削除などがある箇所のみの翻刻を示します。その際本作品は長大なため、連載36回にしたがって分割し、第1回から示していきます。
各回の異同は、本来①から⑧を経て単行本の初版本文の順ですが、全文を示すことを避けているため、現在手に取ることができる単行本を基準とします。便宜上講談社文芸文庫の該当ページを記載しました。ご覧いただく際に、お手元にご用意下さい。
異同がある該当箇所の単行本初版本文を最上に掲げ、その下に①から⑧までを順に並べました。これによって、異同の生じた時点を示しています。
翻刻に関しては、以下の記号を用いました。また、旧字を新字に改めました。ただし、森敦自身が旧字を新字に改めている場合は、旧字を用い、抹消後新字にしてあります。
Ⅰ下線―抹消後の修正や行間などに書き加えられた表現であることを示す。
Ⅱ〔 〕―抹消された表現を示す。塗りつぶされた表現も、判読の可能な場合は、できるかぎり示した。
Ⅲ□―判読不可能な文字。
Ⅳ《 》―翻刻の掲載は、異同を見やすく表記するため、便宜的に空きを設け、上下で表記をそろえた。ただし、15字以上の空きはかえって見づらくなるため、その場合は《 》で空き文字数を示した。
Ⅴ*ー表現に関連する箇所がない場合を示す。
Ⅵ〈 〉―翻刻者の注記を示す。
(お断り―表記について、ブラウザごとに違いが生じる場合があります。Chrome、Safariではすべての表示を確認していますが、Internet ExplorerおよびEdgeでは、とくに圏点(傍点)が表示されないことがあります。その際は黄色マーカーで表示していますので、ご了承下さい。不具合については、TOPページのtwitterアカウントまでお知らせいただけると幸いです。)
異同の掲載は、各回ごとに行いますが、データ量が大きいため、ブラウザでの読み込みに時間がかかってしまいます。少しでも改善できればと考え、以下のようにしました。
各回には2行空きがあり、前半後半のようになっています。原則的にそれに従って、前半と後半にページを分けて作成し、ブラウザでの読み込みやすさを目指しました。それでも異同の数が多い場合は、さらに分割しています。
各回の特徴については、各回ページの冒頭に記し、その箇所を参照できるようにしてあります。
※現在は、第6回までを掲載しています。それ以降については、精査の上、確認が済み次第掲載します。更新情報でお知らせします。
-
初出「群像」
昭和59年3月号(第39巻第3号)初版単行本(P6)
講談社文芸文庫版(P7) -
初出「群像」
昭和59年4月号(第39巻第4号)初版単行本(P16L15)
講談社文芸文庫版(P23L15) -
初出「群像」
昭和59年5月号(第39巻第5号)初版単行本(P33L13)
講談社文芸文庫版(P43L12) -
初出「群像」
昭和59年6月号(第39巻第6号)初版単行本(P44L8)
講談社文芸文庫版(P56L13) -
初出「群像」
昭和59年7月号(第39巻第7号)初版単行本(P59L4)
講談社文芸文庫版(P74L11) -
初出「群像」
昭和59年8月号(第39巻第8号)初版単行本(P73L1)
講談社文芸文庫版(P91L2)
TOPページへ戻る