森敦の描いた小説作品の語句について註釈を試みました。森敦作品の時代的な背景はすでに過ぎ去り、わからなくなってきております。とくにこれから森敦作品を愛読し、研究を志そうとする人たちにとっては、当時の風習や慣習など、そもそも知らないということも生じているでしょう。
そのため、研究会では、語釈によって森敦作品を雰囲気やイメージだけで物語を把握するのではなく、意味的に明快にしていくことを試みました。たんに辞書的な意味にとどまらず、作品舞台となっている地方の風習など、現地調査で実際にその土地の図書館や資料館だけでなく、生活する方々に伺うなどして得た知見も加えた語釈を試みます。
「われ逝くもののごとく」註釈
「われ逝くもののごとく」を読み進めていく上で、必要と判断された語句について、註釈を付しました。「われ逝くもののごとく」の物語の時間は、昭和の大戦中からはじまり、戦後にかけてと捉えられます。この当時の風俗や慣習、とりわけ庄内地方のそれなどは、すでにわかりにくくなってきています。また、語句のいくつかは辞書的な意味としても、把握ができにくくなってきています。そのため、註釈が必要と判断しました。これによって、物語の理解を補い、より鮮明なイメージを捉えることができるでしょう。
さらに、庄内地方は、戦後森敦自身が語るように、〈放浪〉していた地であるため、当時の意味を探ることは、森敦が実際に体験していた意味そのものでもあるでしょう。したがって、森敦の年譜的事項との関連も試みることができます。つまり、「われ逝くもののごとく」の註釈は、物語を意味的に明快にしつつ、森敦自身の年譜的事項との関連を見出していくことでもあるのです。
そこで、以下の基準によって語句を選定し、註釈を付しました。さらに詳細な説明が必要と判断された語句については、補注を付しました。
- 昭和の大戦中~戦後の風俗や慣習などについての語句
- すでに意味がわかりにくくなっていると判断された語句
- 庄内地方特有の語句
註釈、補注のほか、参考文献と森敦がエッセイ等で言及している場合は、その箇所を引用しました。ただし、参考文献に関しては、『日本国語大辞典』『日本大百科全集』など、第一に参照すべき辞典類に関しては表記を省略しました。
庄内特有の語句については、庄内地方に現地調査に赴いた際、鶴岡市立図書館、郷土資料館を中心に調査し、現地の方々にも直接インタビューをしています。それでも判明しなかったり意味として揺れが生じたりしている場合は、原則的に調査継続中と記載しました。今後、調査を継続していきます。
註釈の掲載については、生成過程と同じく連載36回に分け、第1回から順とし、各回ともページ順としています。なお、〈索引〉を五十音順に設けてあります。