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 日本文学専攻  

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日本文学の世界 2002.6.20.掲載

秋澤 池内 石川 岡田 辰巳 傳馬 豊島 針本 松尾 山岡

タイトル!

   なぜ(あたま)(たたくのか

 

           執筆担当  上代文学 青木周平

  

  すでにお亡くなりになりましたが、本学が生んだ偉大な研究者の一人に、藤野岩友先生がいらっしゃいます。その先生の「頓首考」(『國學院大學大学院紀要』5 昭和49年3月発行)という御論文に、中国の拝礼のあり方が詳しく書かれています。すなわち、拝礼として最も重いのが「頓首」であり、次に「稽首」で、「頓首」は頭額をもって地を叩く激しい礼であり、「稽首」はただ頭額を地に至らしめるだけで、地を叩くことはしないと述べられました。さらに興味深いのは、「頓首」の拝は、もともと旬死の形から来たものであり、その拝の核心は「叩頭」にあるとされた点です。中国では、頭額を物に激突させて自殺する習俗があったことが、凶拝としての礼と結びつくともいいます。
 では、日本で「頓首」「稽首」はどうあらわれるのでしょうか。現存最古の作品『古事記』
(712年成立)をみてみます。まず「頓首」は、序文の最後に「臣安万侶、誠惶誠恐、頓々首々」とあります。この「頓首」は、上表文の終わりに用いられる慣用句です。一方の「稽首」は、物語中に2例みえ、臣下の者や服属する者が君主に対してとる行為として記されています。「頓首」の中核をなす「叩頭」という語は、『古事記』にはみえず、『日本書紀』(720年成立)にみえます。この「叩頭」には「ノム」という日本語が訓注に指示されており、この行為が日本語では「ノム」に当たると推測できます。ただし、「稽首」も「ノム」と訓めるかには、異論があります。
 『万葉集』では、「ノム」と訓み得る漢字として「祈」「祷」「乞」があります。一字一音仮名例としては「コヒノム」という語があり、神に対して、旅の安全や体の回復などを祈る語として用いられています。もちろん恋歌では、愛しい人に逢えるよう神に祈る「ノム」もあります。日本人は、中国からの拝礼の語を、「ノム」という日本語の表記として選びとり、さらに意味領域を広げた用い方をしているといえます。漢語との出会いが、日本語にも豊かなみのりをもたらした一例といえましょう。
 ところで、皆さんは「叩頭虫」とは何かご存知ですか。こめつき虫のことです。頭で地を叩くような動作から付けられた名前です。それが自殺のための動作でないことはもちろんです。