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 日本文学専攻  

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日本文学の世界 2003.4.20.掲載

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タイトル!

   バランス感覚

 

           執筆担当  中古文学 豊島 秀範

  

   ワーストワンの水質で知られた手賀沼。しかし以前は、汀には葦や蒲などが生い茂り、多くの魚が生息していた。水鳥の楽園でもあった。沼(湖)の周囲34キロ、面積は10平方キロに及んだ。西岸には志賀直哉などの作家も住んだ、風光明媚なところであった。だが、大規模な干拓によって、湖の面積は3分の1に縮小されてしまった。
  干拓の目的は、水田を作るため。だが、その直後の減反政策によって、完成した広大な水田の多くは、豊かな稲穂の稔りを見せることもなく、今も放置されている。さらに、規模の大きな干拓は、残された湖の自浄作用を失わせた。そして、岸辺まで押し寄せた宅地から流れ込む大量の生活排水が、湖を汚染し続けた。  
  そこで、地下トンネルを掘って、利根川の水を取り込み、汚れた湖水を浄化施設へと送り、利根川に戻すという工事が進められている。私は手賀沼の北、湖北という所に住んでいるが、その住宅地の地下に、人が立って歩けるほどのトンネルを掘り、湖水を浄水場へと導いているという。膨大な費用を要する工事である。  
  すべては、水田を増やそうとして行われた干拓に起因している。生活排水を処理するのなら、下水道を完備すればよい。しかし、一度失った湖の浄化能力は、ふたたびは戻らない。見通しの甘さ、計画性の欠如。状況の変化に応じた見直しをせずに、一度決めた土木工事を最後まで行わせるという短絡的な政策。バランス感覚の欠如と言われても仕方ないだろう。  
  バランス感覚。人間の心や、人間が住む環境は、1+1=2とはならないことも多い。バランス感覚を取り戻さなければならない。バランス感覚の養成や練磨は、言葉によって行われる。そのため、正しく柔軟性に富む言葉の習得が不可欠となる。
  しかし、現状では悲観的にならざるを得ない。特定の分野に人気がでると、皆がそちらに走る。何かが流行すると、誰もがその真似をする。流行には敏感でなければならない。だが、バランスが大切なのである。
  学ぶべき苦悩の歴史を、人々は刻んできている。それが日本の文化であり、伝統なのである。それは日本の現状を判断するスケールでもある。自らのバランス感覚を磨くために、さまざまな時代の文芸作品を通して、日本の文化や伝統をしっかりと確認する必要がある。