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タイトル! |
名作の改変 |
執筆担当 近代文学 傳馬義澄 |
芥川龍之介の代表作「羅生門」は、「下人の行方は、誰も知らない。」という一文で結ばれていますが、この作品が最初に発表(「帝国文学」大正4年11月)された時には次のように結ばれていました。「下人は、既に、雨を冒して、京都の町へ強盗を働きに急ぎつゝあつた。」と。が、この結びはその後、この作品が単行本『羅生門』(大正6年5月、阿蘭陀書房)に収められる時には「下人は、既に、雨を冒して、京都の町へ強盗を働きに急いでゐた。」と改められています。そして更に、作品集『新興文芸叢書第八編 鼻』(大正7年7月、春陽堂)に収められるときに芥川は再びこれに手を加え「下人の行方は、誰も知らない。」という、文庫本や教科書などで今日採用されている結びに改変したのでした。この改変のことは今日では最早周知の事実なのですが、雨を冒して、強盗を働きに京の町へ急ぐ下人を最初は描写しながら、それを「下人の行方は、誰も知らない。」と改変し、これを決定稿とした芥川に、いったいどのような意図が、どのような人間認識が働いたのでしょうか。芥川における小説の方法意識の問題もさることながら、芥川が人間をどのように観察し、認識したのか。「羅生門」末尾の改変はそのことについての尽きない関心を喚起し、検証への興味を限りなく駆りたてるのです。 |