学科紹介 日本文学専攻 国語学専攻 伝承文学専攻 書道課程
文学科(II部) 貴重図書紹介 入試情報 資料室 HOME

 日本文学専攻  

教員紹介 研究会・サークル紹介 学会通信 日本文学の世界

日本文学の世界 2002.11.20掲載             

タイトル!

   近代文学の研究について
           執筆担当  近代文学 田村圭司

  
青木 秋澤 秋葉 石川 岡田 須藤 辰巳 傳馬 豊島 針本 松尾 山岡

 

   国文学は、江戸時代までの国学を基礎に、西洋に学びつつ体系をなす文献学、言語学、哲学、歴史学、社会学などの諸学に補強され、日本の文学を研究対象として出発した、明治以降の学問分野である。その中にあっても、日本の近代文学を考察の対象とする研究は、学問と認知されてから日が浅い。その特色は、作者と作品自体が近代化を目指し西洋を参考に自己形成を果たして行くのと、ほぼ同時の進行を保ちながらながら、研究者と研究もまた西洋を参考に手探りの形で自己形成を進めてきたところにあるといって良い。古典文学研究の場合、研究者が、日本社会で形成されていた作者と作品を対象にするのとは少し違って、近代文学研究の場合は、研究者が、同時代の中で形成されつつある作者と作品を研究の対象とするのである。
 作品に対する注解釈、及び作品によって啓発された思考を追認し拡大して行く鑑賞、さらに作者への注文を主とする批評などは、何れも同時代的関心の中でなされなければならなかった。自他ともに揺れ動く同時代の場でなされる研究に、学問の客観性を与えようとするとき、研究者は時代性によって揺れることの少ない事実に論拠を求めたのである。近代文学研究が伝記を中心としたいわゆる実証的研究を重視したのもうなずけよう。
 だが作者を中心に置いた実証的研究は、作者を特別視しがちになり、読者を巻き込んで作者の信奉者集団を形成することに連なる傾向も生まれた。そこでの研究は作家論が主流になっていた。この作品自体を対象とする研究が育ちにくい情況の中から、戦後になって作品論上に作家論を考えようという思考が生まれ、作品に焦点を合わせた考察がなされ始める。これは伝記的実証的研究から研究者を一応は解放し、研究者の主体性が作品の読みを通して確立される余地を生んだ。
 現今、文学研究に移入されたテキスト論やカルチュラルスタディーズは作品の記述を作者からさらに解き放って論考を進めようとしている。その意味では、戦後の作品論への関心を継承しながらそこからも切れようとする試みが、研究に芽生えたといえるであろう。だが、構成者の関心によって選択し構成した記述を研究対象とする文学研究にあって、構成者の意識と距離を置き過ぎる考察は、研究として片手落ちではないのであろうか。
 ある時代ある社会に、作者や作品が存在し読者や評者が存在するという現象を、どのように理解し説明するのか、総合的立場から具体的な考察を重ねることが、文学研究の世界を豊かにすることに連なると思う。